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ソニーがスパイダーマン・ユニバースの完全リブートを宣言 700万ドルの契約が生んだ30年のねじれ構造を振り返る

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ソニーがスパイダーマン・ユニバースの完全リブートを宣言 700万ドルの契約が生んだ30年のねじれ構造を振り返る

ソニーがスパイダーマン・ユニバースの
完全リブートを宣言した

『ヴェノム』から始まった7年間のSSUは終わりを迎える。だがこの決断の裏には、30年前の契約書が今も両社を縛り続けるという、ハリウッド史上最も奇妙な権利構造が存在する。

ロスマンCEOの宣言

2025年2月、ソニー・ピクチャーズ映画部門の会長兼CEOトム・ロスマンが、ポッドキャスト番組「The Town」で重大な発表を行った。スパイダーマン・ユニバースの完全なリブートを計画しているというのだ。

広義のスパイダーバースは終了しない。だが、新たなキャストとスタッフによる「フレッシュな再始動」になるとロスマンは明言した。

観客に『また見たい』と思わせる時間が必要だ

具体的な製作時期は未定。『マダム・ウェブ2』などの続編については明確に否定しており、既存シリーズの延命ではなく、完全な仕切り直しを意味している。

なぜSSUは失速したのか

2018年の『ヴェノム』から始まったSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)は、興行・批評の両面で厳しい結果が相次いだ。

『ヴェノム』シリーズこそ全3作に展開されるほど商業的成功を収めたが、批評家からの評価は芳しくなく、興行収入も徐々に尻すぼみとなって完結を迎えた。『モービウス』はミーム化するほど不評を買い、『マダム・ウェブ』『クレイヴン・ザ・ハンター』は興行的に惨敗。特に『クレイヴン』は製作費1億1,000万ドル超に対し興行収入が約5,900万ドルにとどまり、当時のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントCEOトニー・ヴィンチクエラが「7年半でおそらく最悪のスタートになった」と認めるほどだった。

だが、この失速の背景には単なる作品の出来不出来を超えた構造的な問題がある。スパイダーマンというキャラクターは、ハリウッド映画ビジネスにおいて最も複雑で奇妙な権利構造を持つIPなのだ。

全ての発端 1990年代、マーベル倒産危機

スパイダーマンの権利が複雑化した根本原因は、1990年代後半にマーベル・コミックスが深刻な倒産危機に陥ったことにある。

資金繰りに苦しんだマーベルは、自社キャラクターの映画化権を各スタジオに切り売りし始めた。X-MENは20世紀フォックスへ。そしてスパイダーマンはソニー・ピクチャーズへ、約700万ドル(諸説あり約1,000万ドル)で売却される。

ここで、映画史に残る伝説的な判断ミスが起きた。

実はこの商談の際、マーベルはアイアンマン、ソー、ブラックパンサーを含むほぼ全てのマーベル・キャラクターの映画化権をセットにして、わずか2,500万ドルでソニーにオファーしていた。しかしソニーの幹部は、こう一蹴したという。

他のマーベル・キャラクターなんてどうでもいい。とにかくスパイダーマンだけ獲って来い

2008年以降、マーベル・スタジオが自社で『アイアンマン』を製作し、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)という史上最大の映画フランチャイズを築き上げたことを考えれば、この判断がいかに皮肉な結果を招いたかは明らかだろう。

007とのトレード 1999年、もう一つの歴史的取引

ソニーがマーベルと契約を結んでも、問題は終わらなかった。1990年代を通じて、スパイダーマンの映画化権はキャノン・フィルムズ、カロルコ・ピクチャーズなど複数の会社を転々とし、泥沼の訴訟合戦に発展していたからである。

1996年には、この訴訟に関わっていた映画会社と大元のマーベル・コミックまでもが次々と倒産してしまう。

そしてソニーの前に最後に立ち塞がったのが、MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)だった。MGMは過去の経緯から自社こそがスパイダーマンの権利を有していると主張し、異議を唱え続けた。

ここでソニー側は、意外な切り札を使う。当時、ソニーはMGMの看板シリーズである『007』の初期作品に関する一部権利を有していた。ソニーは独自の『007』新作シリーズを製作するとMGMを牽制したのである。

1999年、両社は歴史的な裏取引を成立させる。

ソニーが『007』の権利を完全に放棄する代わりに、MGMは『スパイダーマン』の権利を完全に放棄する

ジェームズ・ボンドとスパイダーマン。二大フランチャイズの運命が、一つの契約書の上で交差した瞬間だった。

映画を作り続ける義務 ソニーに課せられたデッドライン

ソニーが獲得したのは完全な買い切りではない。無期限のライセンス契約であり、映画を作り続ける限り権利を維持できるという仕組みである。

契約上の具体的な維持条件は以下の通りとされる。

条件期限
製作開始前作公開から3年9ヶ月以内
劇場公開前作公開から5年9ヶ月以内

8年間で連続3本を公開という実績を作れば、この期限は延長される。だが逆に言えば、このデッドラインを破れば、スパイダーマンの映画化権はマーベル(現ディズニー)に自動返還されてしまう。

ソニーが『ヴェノム』『モービウス』『マダム・ウェブ』といったヴィランを主役にしたスピンオフを矢継ぎ早に展開してきた背景には、スパイダーマンというIPを手放さないための法的な生存戦略が存在するのだ。

44分の壁 メディアごとに切り刻まれた権利

スパイダーマンの権利は、映画だけでなくテレビ、アニメ、グッズなどで細かく切り分けられている。これがファンを混乱させる最大の要因となっている。

映画(実写・アニメ)

劇場公開作品の権利は完全にソニーが保有する。『スパイダーバース』シリーズもソニーの管轄である。

テレビ・ドラマ

2014年に流出したソニーの内部文書で、驚くべき契約内容が明らかになった。

形式権利者
実写テレビシリーズ(全尺)ソニー
アニメ(1話44分超)ソニー
アニメ(1話44分未満)マーベル

ディズニープラスの『ホワット・イフ…?』や『ユア・フレンドリー・ネイバーフッド・スパイダーマン』にスパイダーマンが登場できるのは、この44分未満ルールのおかげである。

グッズ権

おもちゃ、アパレルなどのマーチャンダイジング権は、現在ディズニーが100%保持している。

皮肉なのは、かつてソニーもこの権利を持っていたということだ。2011年頃、財政難に陥ったソニーは目先の現金を得るためにディズニーに権利を売り戻してしまった。そのため、ソニーがスパイダーマン映画を大ヒットさせても、グッズの収益はすべてディズニーの懐に入る。

テーマパーク権

アメリカ国内では、ミシシッピ川を境界にして権利が分かれている。川より東側(フロリダ)ではユニバーサル・スタジオが独占契約を持つため、フロリダのディズニーワールドにはスパイダーマンのアトラクションを作れない。

日本のUSJで長年スパイダーマン・ザ・ライドが存在していたのも、この個別ライセンス契約によるものだ。2024年1月にクローズしたのは、施設の老朽化に加え、20年以上に及ぶ長期契約が満了を迎えたためと考えられている。

マーベルとの連携強化へ

今回のリブート宣言で注目すべきは、ロスマンCEOがマーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長への強い信頼を改めて表明した点である。

ジェームズ・キャメロンとケヴィン・ファイギ。この2人に逆らうような真似は決してしない

マーベルとのパートナーシップは現在も「素晴らしい」状態にあるとし、今後のリブート計画においてマーベルとの協力関係が重要な鍵になることを示唆している。

SSUで示唆されていたトム・ホランド版スパイダーマンとのクロスオーバー展開は具体化しないまま、未消化のままリセットされる公算が大きい。

今後のスパイダーマン関連作品

リブート計画とは別に、現在進行中のスパイダーマン関連作品の予定は以下の通りである。

作品形式公開予定
スパイダー・ノワール実写ドラマ(Prime Video)2026年5月
スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ実写映画(トム・ホランド主演)2026年7月
スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバースアニメ映画2027年6月
ヴェノム(アニメ版)長編アニメ映画未定

MCU版の第4作目『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』は2026年夏に公開予定。前作『ノー・ウェイ・ホーム』で世界中から存在を忘れられたピーター・パーカーが、文字通り全く新しい日々をどう生きていくのかが描かれる。

権利のねじれが生んだ奇跡

スパイダーマンというキャラクターは、ソニーとディズニーという巨大企業の綱引きの上に成り立っている。ファンは大人の事情に振り回され、2019年のMCU離脱騒動ではトム・ホランドの直訴がなければ、スパイダーマンはアベンジャーズから追放されていたかもしれない。

だが、この複雑な権利のねじれがあったからこそ生まれた奇跡もある。

もしマーベルが最初から全ての権利を持っていたら、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』での3人のピーター・パーカー共演という、映画史に残るサプライズは絶対に実現しなかった。トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランド。彼らがマルチバースを越えて共演できたのは、権利が分散していたからこそである。

ソニーが独自に挑戦したからこそ、アニメ映画の最高峰とされる『スパイダーバース』シリーズも誕生した。

権利の都合に振り回されるのはもどかしい。だがその複雑さゆえに、次はどのスタジオがどんな隠し球を出してくるのかという予想外の展開を楽しめるのも、スパイダーマンというキャラクターならではの魅力かもしれない。

700万ドルから始まった契約は、30年を経て、ハリウッド史上最も奇妙で、最もエキサイティングなねじれを生み出し続けている。