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コラム

X-MENはなぜMCUにいなかったのか FoxとマーベルStudiosの25年戦争

2026.07.11 10 min read

マーベルが自ら手放した最強のフランチャイズが、25年越しに手元へ戻ってくるまでの話だ。

2000年に公開された映画版『X-MEN』のエンドロールに、ある若い映画人の名前が記されていた——アソシエイト・プロデューサー、ケヴィン・ファイギ。のちにマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)全体を設計する人物は、その時点では20世紀Foxのスタッフとして、マーベルの象徴的なキャラクターたちの映像化に携わっていた。MCUに「参加できなかった」はずのX-MENが、じつはMCUの設計者を育てていたという逆説から、この話を始めたい。

権利の売却から破産、コミック冷戦、713億ドルの入札戦争まで——企業の思惑と俳優の命運が交錯した25年間を、時系列でたどる。

マーベルの破産と260万ドルの売却

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© X-MEN — TMDB

1990年代初頭、アメリカのコミック産業は投機バブルの真っ只中にあった。コレクター心理を煽った「限定版カバー」「記念号」の乱発が市場を過熱させ、普通の読者が去り、転売目的の購入者だけが残った。1993年にバブルが崩壊すると、マーベルは急激なキャッシュ不足に陥った。

問題をこじらせたのは、CEOロン・ペルマンによる無秩序な多角化だった。カードゲーム会社、玩具会社、ステッカー会社——マーベルはコミック出版社の域を超えて手を広げすぎており、それらの買収コストが重くのしかかっていた。キャッシュを捻出するために、マーベルは映画化権を売り始めた。スパイダーマンはソニーへ、ハルクはユニバーサルへ、そしてX-MENとファンタスティック・フォーは20世紀Foxへ。

コラムスパイダーマン権利問題の全史——700万ドルの契約が生んだ30年のねじれ

1994年、プロデューサーのローレン・シューラー・ドナーがFoxを代表してX-MENの映画化権を取得した。金額は260万ドルに世界興収の約2パーセントという条件だった。交渉の背景には、Fox Kidsが同時期にアニメ版『X-MEN』(1992〜97年)を放映していたという事情がある。Foxにとってこのフランチャイズは既知のブランドであり、マーベルの財務状況を知る側にとって、交渉のテーブルは著しく傾いていた。

1996年12月27日、マーベルはチャプター11(連邦破産法第11章)の適用を申請した。このとき映画化権はすでにFoxの手の中にあった。自社最大のコンテンツ資産を、最も苦しい時期に最も安い値で手放していた——それがマーベルの1990年代だった。

「使わなければ失う」——Foxが映画を作り続けた本当の理由

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© X-MEN — TMDB

マーベルと映画スタジオとの間で交わされた権利契約には、共通するひとつの条件が埋め込まれていた。一定期間内に映画の制作を積極的に開始しなければ、権利はマーベルへ返還される——「use it or lose it」条項だ。

この条項の実例は、デアデビルに見ることができる。Foxはデアデビルの映画化権も保有していたが、2003年の映画版の後、続編を製作しなかった。2012年10月10日、制作開始のデッドラインを越えた瞬間、デアデビルの権利はマーベルへ自動的に返還された。翌2013年にケヴィン・ファイギがその事実を公式に確認し、後にNetflixドラマ版の礎が築かれた。

この力学を最も劇的な形で示した例が、2015年の『ファンタスティック・フォー』だ。Foxはファンタスティック・フォーを2005年と2007年に映画化していたが、その後シリーズが止まっていた。権利を維持するために一定期間内に次作の制作を開始しなければならないFoxは、プロジェクトが十分に整う前に撮影を強行した。

監督に起用されたジョシュ・トランクは、Foxによる大規模な再撮影と製作干渉を受け、自身が意図した作品とはかけ離れた映像が公開されたと語っている。制作費1億2000万ドルに対し、世界興収は1億6780万ドル。スーパーヒーロー映画の全盛期に公開された作品としては記録的な惨敗だった。権利を手放すまいとする焦りが映画の質を担保できない状況をもたらした典型として、業界の語り草になっている。ファンタスティック・フォーは2015年時点で、権利を守るためだけに作られた映画だった。

コミックから消えたミュータント——マーベルとFoxの冷戦

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© X-MEN — TMDB

MCUが軌道に乗り始めた2014年頃から、奇妙な現象がマーベルのコミックで起き始めた。

キャラクターの縮小指令

X-MENの重要人物であるウルヴァリンが表舞台から姿を消し、ファンタスティック・フォーのコミックが打ち切りになった。X-MENの基盤を1970年代から80年代にかけて形成したコミック作家クリス・クレアモントは、マーベルが新しいX-MENキャラクターの創出を禁止したと証言している。新キャラクターを生み出せば、そのキャラクターをFoxが映画化する権利を主張できる可能性があったからだ。

この方針を推進したのは、マーベル・エンターテインメントの会長アイク・パールマッターだった。FoxがマーベルのIPで収益を上げていることに強い反感を持っていたパールマッターは、X-MENとファンタスティック・フォーをコミックとマーチャンダイジングの両方から意図的に縮小させていった。

インヒューマンズという代替策の破綻

代わりに、マーベルは「インヒューマンズ」というグループを全面に押し出した。出自が不明な異能者の集団であり、「社会に受け入れられない超人」というX-MENが長年担ってきた役割を引き継がせようとした構図だ。コミックでは、インヒューマンズが空中に放つテリジェンミストがミュータントにとって致死的な毒素であるという設定まで導入された。フランチャイズ内の比喩として、透けて見えすぎる展開だった。

インヒューマンズ戦略は失敗に終わった。読者も視聴者も、マーベルがX-MENの穴を埋めようとしていることを見抜いており、2017年のABCドラマ版『インヒューマンズ』は酷評の嵐を受けての短期打ち切り。Foxとの冷戦がコミック誌とテレビドラマの質を損なったまま、事態は解決しないかに見えた。

クイックシルバーという外交文書

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© X-MEN — TMDB

2014年と2015年、同じスーパーパワーを持つ同一人物が、二つの異なるスタジオの映画に登場した。ピエトロ・マキシモフ、別名クイックシルバー。その構図は、版権交渉の複雑さを可視化した意図せぬ産物だった。

コミックにおけるクイックシルバーは「ミュータント」であり、マグニートーの息子として描かれている——これはFoxが権利を持つ設定だ。しかし同時に、彼はアベンジャーズのメンバーでもある。これはマーベルが主張できる側面だった。両スタジオは最終的に共有という形で合意した。条件は互いに相手の領域に踏み込まないこと。Fox版のクイックシルバー(演:エヴァン・ピーターズ)は「アベンジャーズ」という言葉を一切口にできず、Marvel版のクイックシルバー(演:アーロン・テイラー=ジョンソン)は「ミュータント」でも「マグニートーの息子」でもなく、「ヒドラの遺伝子実験の被験者」として設定が書き直された。

2014年の『X-MEN: フューチャー&パスト』ではFox版クイックシルバーが観客を熱狂させ、2015年の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』ではMarvel版クイックシルバーが本編中に死亡した。同一人物の同一能力が、同じ年に二作品で別々の形で存在し、一方はシリーズの主役として活躍し、もう一方は退場する——版権の分断がキャラクターの命運にまで及んでいた。

制約が映画に刻んだ痕跡

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© X-MEN — TMDB

権利維持のために作り続けるというやり方は、フランチャイズに累積的な矛盾をもたらした。

X-MENシリーズは2000年の第1作から2019年のダーク・フェニックスまで、20年弱で13本が製作されている。ウルヴァリンの爪が物語のどの時点で金属か骨かという問題、キャラクターの年齢と時系列の齟齬、キャスティングが変わるたびに生まれる設定の不整合。これらはすべて、権利を維持するために連作を止められなかったことの直接的な産物だ。

2014年の『X-MEN: フューチャー&パスト』は、こうして蓄積した矛盾を映画内の時間旅行で上書きするという解決を選んだ。ウルヴァリンが過去に飛んで歴史を書き換えるという筋立ては、図らずもフランチャイズそのものの時系列リセットを映像の論理として体現していた。

一方で、制約の中から逆説的な傑作も生まれた。ジェームズ・マンゴールド監督は『ローガン』(2017年)のR指定を勝ち取るにあたり、Foxに対して「自由と引き換えに予算を削る」という取引を自ら提示した。2016年の『デッドプール』がR指定のまま約7億8000万ドルを稼いだことでFox内の空気が変わり、マンゴールドはその隙を突いた。クロスオーバーの義務から切り離された小規模な映画として作られた『ローガン』は、X-MENシリーズ全体を通じて批評的に最も高く評価される一本だ。

ダーク・フェニックスの運命はその対極にある。コミック史上最高傑作のひとつとされるサーガは、2006年の『X-MEN: ファイナル ディシジョン』で一度粗末に扱われた後、2019年に再び映画化された。後者は撮影終了から公開まで20ヶ月を要し、ディズニーによる買収という状況の中でスタジオの判断が揺らいだ。二度試みて二度失敗したことは、フランチャイズを維持するための量産圧力と、原作が要求する繊細さが相容れなかった典型例として残っている。

713億ドルの決断——マードックがFoxを売った理由

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© X-MEN — TMDB

2017年、エンターテインメント産業の地殻変動を引き起こす買収案が浮上した。

21世紀Foxの支配株主ルパート・マードックは、Foxを手放す決断をした。理由はNetflixをはじめとするストリーミング各社との競争だった。2017年当時、Netflixは年間80億ドルのコンテンツ投資を行っており、AmazonはLord of the Ringsの権利を確保し、AppleとGoogleとFacebookも映像コンテンツへの参入を進めていた。スタジオ単体ではこの規模の競争に対抗できないと判断したマードックは、ディズニーとの交渉を選んだ。

2017年12月14日、ディズニーは524億ドルの株式交換でFoxのエンターテインメント資産を買収すると発表した。しかし翌2018年6月、Comcastが650億ドルの全現金提案を対抗入札として提示した。AT&TによるTimeWarner買収が直前に裁判所から承認されたことで、メディア業界では「大型買収は可能だ」という扉が開かれていた。ディズニーは713億ドル(現金+株式)へと提案を引き上げた。ComcastはSky Groupの買収に集中するとして入札を撤退し、2018年7月27日に株主が承認、2019年3月20日に取引が完了した。

初期提案から最終金額まで、Comcastとの入札戦争だけで約190億ドルが積み上がった計算になる。X-MENとファンタスティック・フォーの映画化権は、その713億ドルの内訳のほんの一部だったが、マーベル側からすれば約25年ぶりの奪還だった。

ミュータント時代の幕開け——21年越しの回収

買収完了後、マーベルは慎重に伏線を敷いた。

2022年のドラマシリーズ『ミズ・マーベル』で、主人公カマラ・カーンの特殊能力の原因が「遺伝子の突然変異(mutation)」と明示され、1990年代アニメ版X-MENのテーマ曲が短く流れた。視聴者へのシグナルとして、これ以上明確なものはなかった。

そして2024年7月、『デッドプール&ウルヴァリン』が公開された。Foxのマーベル映画という文脈に生きてきたデッドプール(ライアン・レイノルズ)がMCUへ移行するこの作品は、Fox時代のキャラクターたちが集結する場にもなった。ジェニファー・ガーナーのエレクトラ、ウェズリー・スナイプスのブレイド、そしてクリス・エヴァンスが演じたのは、Fox版ファンタスティック・フォーのヒューマントーチだった。おなじみのキャプテン・アメリカと同じ顔で、まったく別のキャラクターが画面に現れた。映画は世界興収13億ドル超でR指定映画の歴代最高記録を更新した。ケヴィン・ファイギはこの作品を「ミュータント時代の幕開け」と呼んだ。

2026年公開予定の『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』では、Fox版X-MENのキャストが本編に登場することが確認されている。サイクロップス、ナイトクローラー、マグニートー、ミスティーク、プロフェッサーX——マーベルが1994年に手放したキャラクターたちが、マーベルの映画に帰ってくる。

ここで最初に戻ろう。2000年の映画版『X-MEN』でFoxのアソシエイト・プロデューサーとして現場を学んだケヴィン・ファイギは、当時FoxにX-MENのシネマティック・ユニバース構想を提案した。Foxはその案を採用しなかった。ファイギはその経験を持ってMCUへ移り、アベンジャーズを作り、最終的にX-MENを迎え入れる側に立った。Foxが拒んだ計画の行き先は、消えたのではなく、変わっただけだった。

X-MEN

X-MEN

X-Men

  • 監督ブライアン・シンガー
  • 公開2000年
  • 上映時間104分

200X年。人類は新たな「差別法案」の立法化を目指していた。それはDNAの突然変異により超人的なパワーを持つ“進化した人類=ミュータント”を社会から合法的に迫害するものだった。人類との共存を目指すプロフェッサーX率いるミュータント集団X-MENは、人類の滅亡をもくろみテロ活動を企てるマグニートーたちと全面対決に突入していく!

2026.07.22 取得 · 変更の場合あり

この記事を書いた人

FISHBONE 編集部

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